
コロナ禍にあっても、政府はカジノを含むIR実現に向けた準備を着々と進めている。加えて、誘致に手を上げている自治体では事業者選定に関する手続きが進行しており、その中で一番動きが早いのが和歌山県だ。和歌山市のマリーナシティに誘致を目指す和歌山県は7月20日、カナダに本社があるIR投資会社の日本法人「クレアベストニームベンチャーズ」(東京都)とグループ会社の共同事業体をIR事業者として正式に選んだと発表した。
横浜市はゲンティン・シンガポールやセガサミーなどで構成するグループと、メルコリゾーツ&エンターテインメントなどで構成するグループが資格審査を通過する中、7月27日から横浜市役所で両グループが公募で最終提案した施設のイメージ図など(コンセプトは「スパーク・ヨコハマ」と「ベイ・シティ・ヨコハマ」。いずれがどのグループの企画かは明記せず)を公開。横浜市は有識者による委員会での議論を経て、今夏を目処に事業者を選定する予定だ。
大阪府市では吉村洋文知事が7月21日、唯一の事業者候補であるオリックスと米MGMリゾーツ・インターナショナルの連合が提出した事業計画の投資額が1兆円規模であることを正式に発表。1兆円は段階的に投じられるのではなく、開業時までの投資規模になるという。夏から秋ごろと言われる事業者選定で正式に選定されれば、オリックスMGM連合は来年4月に共同で国に提出する最終的なIRの整備計画を提出する。
そしてハウステンボスへの誘致を目指す長崎県。長崎県は事業者の選定で、1次審査を通過した3者(グループ)すべてが2次審査に必要な書類を県に提出済み。この第2次審査書類が各応募者からの最終提案書となる模様だ。2次審査への書類を提出したのは、「オシドリ・コンソーシアム(代表企業名:Oshidori International Holdings Limited)」、「CASINOS AUSTRIA INTERNATIONAL JAPAN(代表企業名:CASINOS AUSTRIA INTERNATIONAL JAPAN 株式会社)」「NIKI Chyau Fwu(Parkview) Group(代表企業名:株式会社 THE NIKI)」の3者。今後は8月に応募者のプレゼンテーションを経た後、同月に最終的な審査結果の発表となる予定だ。
ちなみに政府は、今年10月~来年4月に自治体からの整備計画申請を受け付け、最大3カ所を選ぶ予定(開業は2020年代後半)。
以上のような誘致に向けた動きを背景に、政府は7月13日、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備法のうち、国内でカジノを解禁し、ギャンブル依存症対策などを定めた条項を7月19日に施行する旨、閣議決定した。これにより同法は全面施行となる。新たに施行される第39条は、事業者が国のカジノ管理委員会による免許を受けた場合、ゲームで金銭を賭けても刑法の賭博罪を適用しないと明記。このほか、免許申請の手続きや審査基準も規定し、依存症対策としては国内客の入場は7日間で3回、28日間で10回に制限する。特定複合観光施設区域整備推進本部事務局は同法におけるIR・カジノ制度について、日本国内において賭博を犯罪としている刑法との整合性を判断するための考慮要素として、カジノ収益の社会還元を通じた公益の実現、カジノ収益の内部還元によるIR区域の整備を通じた観光振興、重層的/多段階的な依存防止対策などを根拠に、刑法との整合制は図れていると説明している。
また国土交通省観光庁は7月20日、特定複合観光施設区域整備計画審査委員会を設置し、第1回会合を開催した。本委員会は国土交通大臣がIR整備法に基づき区域整備計画の認定を行うにあたって、公平かつ公正な審査を行い優れた区域整備計画を認定する観点から設置するもの。
「設置の趣旨」は次の通り。IRの整備にあたって、自治体とIR事業者が共同して作成する区域整備計画の認定申請期間は令和3年10月1日から令和4年4月28日までの間とされている。国土交通大臣は申請のあったものの中から上限を3として、認定を行うこととなる。IR基本方針において、国土交通大臣はIR整備法に基づき区域整備計画の認定を行う際に公平かつ公正な審査を行い、優れた区域整備計画を認定する観点から有識者により構成される審査委員会を設置することとされており、今般、特定複合観光施設区域整備計画審査委員会を設置した。
審査委員会の委員は、委員長 竹内 健蔵 東京女子大学現代教養学部教授、委員長代理 山内 弘隆 武蔵野大学経営学部特任教授(一橋大学名誉教授)、委員 朝岡 大輔 明治大学商学部准教授(京都大学経営管理大学院客員准教授)、委員 大橋 弘 東京大学大学院経済学研究科教授、委員 河島 伸子 同志社大学経済学部教授、委員 樋口 進 国立病院機構久里浜医療センター院長、委員 古谷 誠章 早稲田大学理工学術院教授、委員 矢ヶ崎 紀子 東京女子大学現代教養学部教授。
審査委員会における率直な意見の交換及び意思決定の中立性を確保するため、区域整備計画の認定に関する審査委員会の会議は公開しない。一方、認定審査の透明性を確保する観点から、審査委員会における認定審査の結果及び評価の過程については区域整備計画の認定後速やかに公表するものとする。審査委員会の事務局は国土交通省観光庁が担当する。
横浜市は8月の市長選挙の結果次第で誘致断念の可能性がくすぶるが、麻生副総理の弟(麻生セメント代表)が九州経済界を挙げて誘致をバックアップする長崎、万博を控えた大阪など、横浜市以外の地域では幾つか誘致反対の動きはあるものの、誘致の意向を覆すほどの規模ではない。政府、自治体共に順調にカジノを含むIR実現に向けた段取りが進めば、2020年の後半には日本でカジノが解禁されることになる。遊技業界においては、引き続き「依存対策」をキーワードにしたカジノとの比較、ことさら入場に関する管理方法への言及には業界として注意したいところだ。射幸性が厳しく制限されている大衆娯楽として広く大人に開放された場であり続けるために、ここは行政の理解を得ておきたい。