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【寄稿】インターネットアンケートの信頼性とスクリーニングの重要性(月刊シークエンス2025年11月号)

*本稿は月刊シークエンス2025年11月号寄稿分に一部加筆修正したものとなっています。

 

 近年、メディアや企業の調査資料において「インターネットアンケートによる結果」が頻繁に引用されるようになった。スマートフォンやPCの普及により、短期間で大量の回答を集められるという利点がある一方、その信頼性については依然として議論が絶えない。筆者は、インターネットアンケートの回答精度について、基本的に懐疑的な立場をとっている。
 より正確に言うならば、「インターネットアンケートの結果は、調査方法によって大きく変動する」という点である。特に、回答者のスクリーニング(事前選別)を怠ると、アンケートの趣旨とは無関係な層の回答が大量に混入し、結果として誤った結論を導く危険がある。
 本稿では、筆者が関わっているパチンコ・パチスロ市場調査を例に、インターネットアンケートの信頼性を確保するうえで不可欠な「スクリーニング」と「設問設計」の実践的課題について解説する。

アンケートの実施方法によって結果は変わる

 まず、アンケート結果を読み解くうえで最も重要なことは、「誰に」「どのように」質問を行ったか、という点である。これはいわばアンケートの〝基礎設計〞であり、ここを誤ると、いかに精緻な分析を行っても意味をなさない。典型的な例として、政党支持率や内閣支持率の世論調査を挙げることができる。これらは依然として固定電話を用いた調査が多く、その結果が高齢層中心に偏っているという指摘は周知の事実である。
 現代において固定電話を所有する世帯は減少傾向にあり、特に若年層では携帯電話やSNSが主な通信手段となっている。つまり、固定電話調査によって得られるデータは、実際の世論とは異なる〝限られた層の意見〞を反映したものにすぎない。さらに問題なのは、電話に出た時点で自動的に回答者として扱われることである。政治に関心が薄い人であっても、その場の気分で回答すれば、その意見が「国民の声」として統計に反映されてしまう。結果として「知っている=支持している」という誤った因果関係が生まれ、データの信頼性を著しく損なう。
 このように、アンケート調査においては「スクリーニング」と「実施方法」の設計が極めて重要であり、これを軽視すれば、どんなテーマであっても正確な結果を得ることは難しい。 

パチンコ・パチスロ調査におけるスクリーニングの実態

 インターネットアンケートの世界では、「パネル」という言葉が頻繁に登場する。これは、アンケート会社が保有する登録回答者の集合体を指す。大手のアンケート会社では、数百万人規模のパネルを抱え、他社との共有や交換を行うことで調査母数を確保している。
 しかし、筆者の経験上、これらの〝汎用パネル〞をそのまま使用すると、精度の高い調査は実現できない。特にパチンコ・パチスロのような特定趣味層を対象とする場合、「本当にプレイヤーであるか」を見極めることが最大の課題となる。
 なぜなら、多くのパネル登録者は、回答することで得られる報酬(ポイント等)を目的に参加しており、実際にはその分野の知識や経験がない場合が多いからである。彼らは、スクリーニング設問において「あなたはパチンコをしますか?」と問われた際、「はい」と肯定的に答えれば、その後の設問回答に参加でき、報酬を得られることを理解しており、直感的に肯定的回答を選択する傾向がある。こうした状況を放置すると、信頼性の低いデータが大量に混入することになる。
 実際の調査事例を挙げよう。あるアンケートで「パチスロで遊ぶ」と回答した5850人に対して、次の設問で「よく遊ぶパチスロ機」を選ばせたところ、「パチスロはしない」と回答した人が1473人、全体の25.2%にのぼった。つまり、スクリーニングを2段階構成にするだけで、4分の1もの”偽回答者”を除外できたことになる。
 さらに、「週に1回以上パチスロをする」と回答した2623人に、「最も好きなパチスロ機(注:パチンコではないという注釈付き)」を選ばせたところ、ダミー選択肢として用意した「海物語」や「牙狼」を選んだ回答者が44.8%も存在した。これらはいずれもパチンコ機のヒット作でありパチスロ機としてはほとんど目立つ存在ではない。つまり、半数近くがジャンルの違いする理解していない、あるいは設問をよく読まずに回答するという悪質回答者だったということになる。さらに設問を掘り下げると「AT機をメインに遊ぶ」と回答しているにも関わらず「ツラヌキ」「チャンスゾーン」「特化ゾーン」といった用語の理解を間違えている回答者が約2割存在した。
 このように、単純な自己申告に頼るだけでは正確なスクリーニングは不可能であることから、筆者はこれらの経験を踏まえて、十分なスクリーニングを行った上で独自の「専用パネル」を自社で構築している。定期的にこのメンテナンスを行うことで、精度の高い回答者群を維持することは調査会社としては常に重要なことだ。

設問設計における注意点

 次に、スクリーニングを通過した後の設問設計について触れておきたい。現在、筆者が実施する調査では、回答者の約7割以上がスマートフォンやタブレットといったモバイル端末から回答しており、PC利用者は3割に満たないことが多い。スマホユーザーに共通する特徴として、「長文を読みたくない」「長文を入力したくないという傾向が挙げられる。これがアンケート設計上、深刻な課題をもたらす。
(1)選択肢の多さによる精度低下
 スマホ画面ではスクロールが煩雑になるため、選択肢が多い設問では上位に表示された項目が選ばれやすく、下位の選択肢ほど選ばれにくいという「序列バイアス」が生じる。この傾向を緩和するためには、回答選択肢をランダム表示させるなどの工夫が不可欠である。
 また、回答者の集中力が持続する時間はせいぜい10分程度であることを前提に、設問数や回答時間を設計する必要がある。
(2)自由回答への期待値を下げる
 自由回答(フリーアンサー)形式の設問は、かつては貴重な意見を得る手段とされたが、モバイル時代においては有効性が低下している。「製品やサービスに対する要望を自由に記入してください」としても、実際には「ない」「特になし」といった短文回答が大半を占める。長文での意見は、全体の数%程度しか得られないのが現状である。したがって、自由回答に依存する設計は避け、選択式で要望や印象を把握できるような工夫をすることが求められる。
(3)回答者心理の理解
 多くの回答者は、「アンケートには答えたいが、できれば早く終わらせたい」と考えている。この心理を前提とし、設問文は簡潔に、選択肢は直感的に答えられる形にすることが肝要である。特に専門用語を多用すると回答離脱が増加し、最終的な有効回答数が減少する。

まとめ

 ここまで述べてきたように、インターネットアンケートは迅速かつ低コストで実施できる反面、「回答者の真実性」を保証することが難しいという根本的な課題を抱えている。さらに、SNSの発達により、特定の意見が瞬時に拡散される現代では、アンケート結果そのものが〝情報操作〞の一環として利用される危険性もある。たとえば、ある製品の評価調査で、特定の企業や団体が好意的な回答を誘導したり、自社に有利な設問構成を意図的に採用するケースも報告されている。
 このような状況下では、「誰が、どのように調査を行ったのか」を明示する透明性が何よりも重要とで、調査主体の倫理性と技術的精度の双方が問われる時代に入っているといえるだろう。

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