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【寄稿】アンケートは未来を予測するものではない 〜大阪・関西万博に見る「事前調査」と「結果」を分けたもの〜(月刊シークエンス2026年2月号)

事前評価と開催後に起きた「現実」〜大阪・関西万博〜

 企業や業界団体が将来のビジネス展開を検討する際、消費者アンケートは極めて有効な手法として活用されている。商品開発、価格設定、広告訴求、来店促進施策など、あらゆる局面で「事前に消費者の声を聞く」ことは、いまや常識と言ってよい。
 しかしながら、アンケート結果がそのまま将来の成否を規定するわけではないこともまた事実である。アンケートはあくまで「調査時点での意識」を可視化するものであり、その後に行われる施策、情報発信、社会的空気の変化によって、結果が大きく覆ることは少なくない。むしろ、アンケート実施からビジネス実行までの「空白期間」に何を行ったかこそが、最終的な成果を左右すると言える。

 近年、その象徴的な事例として挙げられるのが大阪・関西万博である。

 大阪・関西万博は、開催決定当初から必ずしも好意的に受け止められていたわけではない。工事の遅れ、前売りチケット販売の伸び悩み、建設費の増大、税金の無駄遣いといった批判的な報道が相次ぎ、「本当に成功するのか」という疑念が世論の中に根強く存在していた。
 令和4年度に実施された「2025年大阪・関西万博の機運醸成にかかるアンケート」(大阪府・大阪市万博推進局)を見ても、その空気感は数字として表れている。
 万博の「認知度」自体は高い水準にあったものの、「興味・関心」や「行きたい」という意向は決して高いとは言えなかった。特に大阪府外の居住者や若年層においては関心の低さが顕著であり、テーマ認知や公式キャラクターの認知も限定的であった。アンケート結果だけを見れば、「成功を楽観できる状況ではない」と判断するのが妥当であっただろう。少なくとも、自然発生的な盛り上がりに期待できる状況ではなかった。

実際に起きた変化

 しかし、実際に万博が開幕すると、状況は大きく変化する。当初こそ様子見の来場者も多かったが、次第に来場者数は増加し、SNSや口コミを通じて「思ったより面白い」「行ってみたら想像以上だった」という評価が広がっていった。来場者自身が発信する体験談、写真、動画がSNS上で二次的な広告として機能した点も見逃せない。事前の情報では伝わりにくかった「現地体験の価値」が、来場者の言葉によって可視化され、それがさらなる来場意欲を喚起する好循環を生んだ。
 象徴的なのが公式キャラクターの存在である。事前アンケートでは認知度は決して高くなかった。しかし開催を通じて露出が増え、独特なデザインや世界観がSNSを中心に話題となり、結果としてキャラクター人気が爆発的に拡大した。批判的な評価やネガティブな話題ですら「話題性」として消費され、結果的に注目度を高める要素となった側面もある。大阪・関西万博は、評価が固定された存在ではなく、開催期間を通じて「意味づけ」が更新され続けたイベントだったと言える。

アンケート結果は「起点」にすぎない

 この事例が示しているのは、アンケート結果とは未来を予言するものではなく、あくまで「現状の課題を示す起点」であるという事実である。大阪・関西万博の場合、事前アンケートによって以下の点が明確になっていた。

・興味・関心が十分に喚起されていない
・テーマの理解が浸透していない
・キャラクター認知が限定的である

 これらは失敗要因ではなく、「強化すべきポイント」を示すヒントであった。実際、その後の施策はこれらの弱点を補う方向で積み重ねられていった。その結果、アンケート時点の評価を上回る成果が生まれたのである。大阪・関西万博の成功は、「アンケート結果を否定した成功」ではなく、「アンケート結果と真摯に向き合い、施策を積み重ねた成功」である。
 アンケートは、未来を当てるための水晶玉ではない。しかし、未来をつくるための設計図にはなり得る。事前評価が低くとも、施策とコミュニケーション次第で結果が大きく変わることを示した好例である。

パチンコ業界への示唆

 この大阪・関西万博の例は、パチンコ業界にとっても、その他の一般業種においても非常に参考になる。パチンコ業界でも、新機種導入前のユーザー調査や、若年層の遊技意向調査、ブランドイメージ調査などが数多く実施されている。その中で「若年層の関心が低い」「新規ユーザーの参入意欲が乏しい」といった結果が出ることは珍しくない。

 しかし、その数字をもって「市場は縮小する」「もう伸び代はない」と結論づけてしまうのは早計である。重要なのはアンケート後に何をするかである。

 例えば、事前調査で「ルールが分からない」「入りづらい」という声が多ければ、それは参入障壁を下げる施策を設計するヒントになる。「キャラクターや世界観に魅力を感じない」という結果が出れば、IPの見せ方や体験導線の再設計が求められる。パチンコ業界は長年にわたり「遊技して初めて分かる面白さ」に依存してきた側面がある。しかし、万博と同様、体験価値が事前に伝わらなければ、来店動機は生まれにくい。アンケートで示される低評価は、「興味を持たせる余地が残っている」ことの裏返しでもある。
 パチンコ業界においても、アンケートは未来を閉ざすものではなく、未来を変える材料として扱うべきであろう。数字が悪いこと自体が問題なのではない。数字が悪い理由を放置することが問題なのである。

 

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