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【寄稿】顔認証改札機の利用意識に関する調査レポート2025年版(月刊シークエンス2025年5月号)

*本稿は月刊シークエンス2025年5月号に掲載されたものを一部加筆修正したものです。

1.はじめに

 大阪メトロでは、これまで実証実験が続けられてきた「顔認証改札機(ウォークスルー型顔認証改札サービス)」の本格運用が、2025年3月25日に開始された。とりわけ、大阪・関西万博の会場最寄り駅である夢洲駅にも設置されたことで、他府県からの来場者を含め、利用者の関心は一段と高まっている。
 本レポートでは、ぱちんこ業界における“顔認証技術の活用可能性”という視点も踏まえ、2024年3月号で報告した一般男女1000名を対象とする調査結果と比較し、顔認証改札に対する「利用意欲」と「不安点」にどのような変化が生じているかを明らかにする。2024年と同条件・同設問で、2025年4月19日に実施した独自調査の結果を紹介しながら、利用者意識の変化と今後の普及に向けた課題を考察する。

2.調査概要

調査対象:首都圏または関西圏在住の20代〜60代男女 各100名(計1000名)
調査方法:インターネットアンケート
実施日:
 2024年調査=2024年2月15日
 2025年調査=2025年4月19日

主な調査項目:
 ①顔認証改札機の利用意欲
 ②利用における不安点

3.顔認証改札機の利用意欲

3-1.全体の傾向
 「顔認証改札機を利用してみたいか」という問いに対する回答を、前年(2024年)調査と比較すると、2025年調査では利用にネガティブな意見が僅かに増加する結果となった。この1年で技術的な認知が進み、理解が深まることが期待されたが、むしろ利用への警戒感が高まりつつある様子がうかがえる。

3-2.男女別の傾向
 男女別集計では、利用に対するポジティブ/ネガティブの傾向に大きな差は見られず、性別が利用意欲に影響を及ぼしている兆候は認められない。

3-3.年代別の傾向
 年代別集計では、以下の点が特徴的である。
 ・30代のポジティブ回答が前年から大きく減少
 ・「利用したくない」と強く否定する回答が20代・40代・50代で増加
 高齢層のみが拒否反応を示しているわけではなく、若年層〜中年層においても慎重姿勢が強まっている。結果として、顔認証改札に対する期待感は世代横断的に低調であることが確認された。

4.利用意欲の停滞とその背景

 今回の調査には首都圏在住者も含まれているため、周知活動の効果を直接測定するものではないが、全国的にネガティブ意識が増加している点は看過できない。背景として、インターネット詐欺、
アカウント乗っ取り、個人情報流出といったネット犯罪の増加が「デジタル社会への不信感」を強めていることが挙げられる。このような風潮の中では、顔認証改札が普及するためには、圧倒的な安心感と利便性を利用者が実感しなければならない。

4-1.万博初日の“象徴的な光景”
 2025年4月13日の大阪・関西万博初日、ブルーインパルス飛行中止の影響で夢洲駅は大混雑となった。16台の自動改札機のうち1台が顔認証改札であったが、改札口前に多くの乗降客があふれる中、顔認証改札機を利用する人は見たところ一人もいなかった。もしこの1台が通常改札機であれば、全体の処理能力は約6.7%向上した計算となる。この事実は、実際の運用現場でも顔認証改札が十分に活用されていないことを示している。

5.顔認証改札機が敬遠される理由

 利用時に不安を感じる点について複数選択で尋ねたところ、結果は以下の通りであった。
 ・認証エラーで改札を通れないのではないか(52.5%)
 ・顔写真が流出するなど、別目的で利用されるのではないか(45.2%)
 ・似た顔の人物の料金を誤って請求されるのではないか(27.0%)
 ・行動履歴を第三者に把握されるのではないか(21.6%)
 ・不安点はほとんどない(20.7%)
 2024年調査と比較しても順位は同じであり、認証トラブルへの懸念、画像データ流出への恐れの2点が、顔認証改札を避ける主因であることが改めて示された。
 一方、ポジティブ回答である「不安に感じる点はほとんどない」は、17.3%から20.7%へ増加しているものの、依然として約8割の利用者が不安を抱いているという厳しい状況にある。

5-1.「安全」と「安心」のギャップ

 豊洲市場移転問題での「安全だが安心ではない」という言葉が象徴するように、消費者は情報漏洩やハッキング被害のニュースを通じ、“理屈ではなく感情で”安全性を判断する傾向が強い。企業がいくらセキュリティの強固さを説明しても、一般消費者が感じる不安は簡単には払拭されない。今回の結果は、顔認証改札がまさに同様の状況にあることを示している。

6.まとめ:普及への道はまだ遠い

 今回の調査から、顔認証改札は本格運用が開始されたにもかかわらず、「利用意欲はむしろ減退」「不安点は依然として根強い」「実際の運用現場でも利用が伸びていない」という三重の課題が明らかになった。
 「安心」の形成には時間がかかり、単なる安全性の説明だけでは不十分である。今後普及が進むためには、<認証精度の確実な向上><データ管理体制の透明化><利用者が“体感的に安心できる設計”>が不可欠である。
 顔認証改札機が社会インフラとして定着するには、技術面だけでなく、利用者心理への丁寧なアプローチが求められる。現段階では、本格的な普及にはなお時間を要するものと考えられる。

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