【寄稿】客が減った時代のマーケティング 〜「普通の人」が減ってヘビーユーザー依存が進行する危機感〜

 「レジャー白書」によると僅かながら遊技参加人口が増加に転じたと報告されているが、業界人の感覚として、これを好意的に受け止める人は少ないのではないだろうか。この「客が減っている」という事実は、単なる遊技人口の減少という話だけでは終わらない。マーケティングの観点から見ると、それは市場構造そのものの変化を意味している。かつては、大量の〝一般客〞によって成立していた市場が〝限られたヘビーユーザー〞によって支えられている市場へと変化しつつある。この違いは極めて大きい。本稿では、「客が減った時代」におけるパチンコ業界のマーケティングについて考えてみたい。

「市場縮小」は、単なる数字の問題ではない

 市場縮小という言葉は、どこか曖昧である。しかし実際には、市場縮小とは「売上が減る」というだけの話ではない。もっと本質的な問題は、〝市場の空気〞が変わってしまうことにあると筆者は考えている。
 例えば、かつてのパチンコ店には、多種多様な人々がいた。仕事帰りのサラリーマン、買い物帰りの主婦、友人同士の若者、休日のカップル、高齢者グループ――。店内には常に一定の人の流れがあり、パチンコは世の中に「普通に存在する娯楽」であった。
 しかし現在、多くのホールでは客層が固定化している。もちろん、今でも幅広い客層を維持している大型店舗は存在する。しかし全国的に見れば、遊技人口減少によって〝客層の偏り〞が進んでいることは否定できないし、そのように実感しているホール経営者も多いのではなかろうか。
 この変化は、マーケティング上、極めて重要である。最大の理由は、人は「他人がやっている遊び」に参加しやすく、「誰もやっていない遊び」には参加しにくいからだ。
 これは自然なことで、職場や友人との会話で、わざわざ「誰もやっていない遊び」について話が盛り上がることはない。「俺は昨日、いくら勝った」とか「何連チャンした」というように、多くの参加者それぞれが会話を通じてインフルエンサー的な行動を行うことで、「じゃあ、自分もやってみようなか」と思う人が出てくる。「誰もやっていない遊び」にはそのチャンスがほぼ存在していない。

「普通の人」が消えた市場

 現在のパチンコ市場は、参加者が約700万人存在するという点では「誰もやっていない遊び」ではない。しかしながら、ピーク時から大きくその数を減少させているという点では、それに近い印象をもつ人たちも多いことだろう。筆者はこの〝減少〞について、「普通の人」がキーワードになると考えている。ここで言う「普通の人」とは、パチンコを人生の中心に置いていない層だ。
・たまに友人と行く
・広告やSNSなどを通じて気になった新台を打ちに行く
・暇つぶしで立ち寄る
・仕事帰りに同僚とパチンコをする
・負けたらしばらく行かない
 かつてのパチンコ市場には、こうした〝ライトな参加者〞が大量に存在していた。しかし現在、そうした層は大きく減少しており、市場に残っているのは、比較的熱量の高いユーザーである。
 無論、これは短期的には悪いことばかりではない。熱量の高いユーザーは遊技頻度も高く、新台情報にも敏感であり、SNSでの発信力もある。
 しかし長期的に見ると、この構造には危険性がある。なぜなら、「普通の人」が存在しない市場は、新規参入障壁が極端に高くなるからだ。
 例えば、初心者が初めてパチンコ店へ入ろうとした時、周囲にいる客の大半が明らかなヘビーユーザーばかりだった場合、その空間は「自分とは違う人たちの場所」に見えやすい。専門用語を理解し、演出法則に詳しく、長時間遊技に慣れている人々ばかりが集まる空間は、未経験者にとって心理的ハードルが高い。本来、市場には「たまに遊ぶ人」「付き合いで来た人」「なんとなく座ってみた人」といった中間層が存在することで、初心者が自然に溶け込みやすくなる。
 しかし、その層が減少すると、市場全体が〝玄人の集まり〞のように見え始める。これは単に客数が減る以上に、新規参入者の心理に大きな影響を与える問題といえるだろう。

●〝濃い市場〞で起きること
 市場がヘビーユーザー中心になると、コンテンツは次第に刺激を強めていく。なぜなら、熱量の高いユーザーほど、より強い刺激を求める傾向があるからだ。これはゲーム業界でも、動画配信でも、SNSでも起きている現象である。
 パチンコにおいても、
・より強い出玉性能
・より高い射幸性
・より派手な演出
・「より深い知識性
が求められやすくなる。
 しかし、その方向性はライト層にとって必ずしも優しくない。結果として、市場はさらに〝濃い人向け〞になり、新規客との距離が広がる。これはマーケティング上、非常に難しい問題である。

「客が減った時代」に必要な視点

 では、「客が減った時代」のマーケティングに必要なものとは何なのか。それは、〝客数が多かった時代の発想〞から脱却することではないだろうか。大量集客前提の時代には、
・とにかく新台
・とにかくイベント
・とにかく広告
が成立しやすかった。しかし現在は違う。重要なのは、「限られた客との関係性」をどう作るかである。
 これは飲食業界でも、アパレル業界でも、サブスクリプションビジネスでも共通している。単なる〝消費〞ではなく、〝継続的接点〞が重視される時代になっている。パチンコ業界も例外ではない。
 かつては、「一度来店してもらうこと」そのものに大きな価値があった。市場全体に勢いがあり、来店客数も多かった時代には、新台入替や大型広告によって瞬間的に集客できれば、一定の成果が見込めたのである。しかし現在は、一度来店しただけでは関係が続きにくい。スマートフォンには常に大量の娯楽が存在し、ユーザーの可処分時間を巡る競争は激化している。
 その中で重要になるのは、「遊技した後も、その店やコンテンツ(=パチンコ)との接点が残り続けること」だろう。SNSによる情報発信、IPを軸としたファンコミュニティ、来店イベント、動画コンテンツ、会員サービスなどは、その継続的接点を生み出すための装置とも言える。つまり現代のマーケティングでは、「遊技させること」だけでなく、「忘れられないこと」が極めて重要になっているのではないだろうか。
 今後のパチンコ業界において重要になるのは、「遊技体験全体」の設計のように思える。機械性能だけでなく、店舗空間、接客、居心地、SNS発信、IP活用、コミュニティ性、イベント性。そうしたものを含めた総合体験が重要だ。
 実際、近年は「推し活」文化との親和性を模索する動きも見られる。これは非常に興味深い。なぜなら現代の消費行動は、「機能消費」から「意味消費」へ移行しているからだ。単にモノを買うだけでなく、「誰を応援するか」「どの世界観に共感するか」「どのコミュニティに所属するか」が重視されている。
 パチンコ業界もまた、〝遊技〞そのものだけではなく、「どんな時間を提供できるか」が問われているのかもしれない。
 
 このように考えると、目指すべき新たな遊技体験設計が、一部の熱量の高いユーザーからの偏った支持を目指すものとなっては、〝客が減った〞時代のマーケティングとしては疑問が残る。
 人口減少と高齢化が進む中において、若年層の開拓は十分に意味があることだと考えるが、それが「普通の人」が理解しにくいアプローチになっては逆効果だ。
 パチンコ業界は「普通の人」を多く失ったこれまでの経験を踏まえ、ヘビーユーザー依存からの脱却を同時に目指さなければ、若年層へのアプローチが本当の成果を生むに至らないと懸念している。

*本稿は月刊シークエンス2026年6月号に寄稿したものを加筆修正したものです。

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